砂漠で瞑想し続けた男

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巨匠メビウスによる漫画作品

現実世界のフィジカルなお話ではなく、私が所有する漫画本のお話です。

フランスのバンド・デシネの巨匠メビウスの作品です。サブカルや漫画好きの方にはかなり有名な知る人ぞ知る漫画家さんで、日本の様々なアニメーターや漫画家に多大な影響を与えています。

私はサブカルにはそこまで詳しくはないのですが、有名どころでは大友克洋宮崎駿鳥山明松本大洋など挙げ始めたらキリがありません笑。もはや、この人なくしては今日の日本アニメ界の隆盛はなかったと言っても過言ではないかもしれません。

メビウスを知ったきっかけになったのも10年ほど前に、やはりAKIRAナウシカのルーツを調べていたときだったと思います。メビウスことジャン・ジローさんは2012年に73歳で他界されていますが、生前宮崎監督をフランスに招いて対談もされているようです。

Youtubeにも対談の際の動画がアップされていました。

Hayao Miyazaki - YouTube

この対談のなかでもはっきりとナウシカメビウスの影響によって作られたと宮崎監督ご本人が断言しております笑

ナウシカという作品は、もう明らかにメビウスの影響によって作られたものです。」

「(あーあ、ついに言っちゃった。)」とでもいうような、なんとも照れくさそうな宮崎監督の笑顔がすべてを物語っていますよね。その表情に対しての「(でしょ?ほーらやっぱり。)」と言ってるようなメビウスの表情が、お二人の強いつながりを示す本当に見どころのある良い場面ですね。

私もナウシカのマンガ原作本を学生時代に買って読んでいた記憶があり、いま思えば絵の画風はメビウスを意識した描き方だったような気もします。もしかしたら漫画を書こうと思ったきっかけ自体をメビウスが作ったのかもしれません。

あと、この本の詳しい内容はメビウスの来日の際にも携わった原正人さんのYoutubeの動画でも紹介されていますので、よかったら見てみてください。

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本の中に広がる宇宙

この記事を書くために再度この本を読み直してみたのですが。本当に絵の線が美しく素晴らしいの一言です。この本はメビウス最後の作品だそうですが、ひとりの漫画の神さまが最後にたどり着いた境地と言いますか、非常に神秘的なものを感じる作品です。

ひとたびメビウスがペンを走らせればそこに世界が広がる、そんなイメージですね。

宮崎監督も以前、空間認識能力が桁違いにすばらしいと語っていたこともあり、やはり頭の中に見えているイメージを正確に視覚化できるような能力なのだと思います。しかし凡人の私からすれば、どうやったらこんな絵が描けるの???と後ろにはてなマークが100個くらい重なってしまうほどの才能ですよね。巻末に日本語版のための特別インタビューが載っているのですが、なぜごんな絵が描けるかどうかはやっぱり秘密だそうです笑

メビウスの頭の中では別の宇宙や世界が見えていて、彼の漫画を通してその世界を私達も見ることができる、そんな秘密なのかもしれません。

砂漠に例えた現実世界の話

作品の内容は全編モノクロで、主人公の男が砂漠で瞑想しているその周りにいろいろなものが自由自在に形を変えながら出現・消滅を繰り返す。最後には主人公とともにいつのまにか周りのものも消えてなくなっているというストーリー。ページとページの間につながりがあるようでもあり、ないようでもある、という非常に不思議な作品です。

見る人によっていくつもの解釈が生まれるような、それくらい自由に溢れた作品です。

個人的には砂漠ですべてが同じ色にも見えるので、見えるものすべては砂でできていて、概念によって砂が形を変えているだけなのではないか、とも解釈できます。それはあたかも、この現実世界も実は同じようなものなのではないか、というメビウスからの隠れたメッセージなのかもしれません。

巻末インタビューでもご本人が、ジャン・ジロー名義の作品はあらゆる制約で描いているが、メビウス名義の作品は「技巧的でありながらも夢幻の自由さを持って」描いた作品であると語っています。

たしかにこの本に登場する周りの人物やモノもいままで見たどんなファンタジー作品よりも自由さに富んだものだと感じます。1ページ目に天使の絵を描いていることからも、この現実世界に生きる私達も実は誰もが天使に護られながら生きているんだよと伝えたかったのかもしれません。

そのなかで人間たちはあらゆる自由を謳歌できるし、この世界は循環していて概念によってどんな形にも姿を変える砂漠のようなものだと。

メビウス」という名もそんな宇宙の循環を表しているのかもしれません。